クロック関連機器の研究開発と製造販売

日本の周波数研究機関

日本の周波数研究機関

 日本の代表的な公的周波数研究機関には、「産業技術総合研究所(AIST)」と「情報通信研究機構(NICT)」があります。どちらの機関も総合研究の中の周波数専門部門という位置づけで、世界でもトップクラスの研究成果を誇ります。日本では、この2機関のみ周波数国家標準器を保有し、周波数関係の計量法校正登録事業者に対して校正等を行っています。それぞれの周波数研究の内容は、近い部分もありますが独自の内容も多いです。両機関の概要を、本サイト的にご紹介したいと思います。

産業技術総合研究所(AIST)

AIST敷地

 産業技術総合研究所(略称「産総研」)は、全国に拠点を有する日本最大級の国立研究開発法人です。周波数の国家標準器が設置されているのは、茨城県つくば研究学園都市内に東京ドーム約43個分の広大な敷地にある「つくば本部」です。つくば本部だけでも「つくば中央」「つくば東」「つくば西」と3ブロックに分かれています。産総研には、周波数、重さ、長さ、温度等の様々な国家標準に対する校正を行う「計量標準総合センター(NMIJ)」という部門があり、周波数の校正は、その中の「物理計測標準研究部門」が担当されています。

 

産総研 つくば中央第3

 周波数校正を行う「物理計測標準研究部門」は、つくば本部内「つくば中央第3棟」にあり、周波数国家標準器は隣接する地上2階・地下2階の実験棟に設置されています。地下3階分の深さ構造になっており、外気温の変化が出来るだけ機器に影響しないようにしています。 産総研の周波数国家標準器は、高精度OCXOであるBVA8607を水素メーザー発振器でサーボロックして得ています。さらに長期安定度確保のため複数の5071Aにもロックさせています。水素メーザーと5071Aは、安定性確保のため±0.1度の恒温チャンバーに格納され計4システムの標準器が稼働しています。

 

位相雑音校正システム

←産総研の周波数国家標準器管理システムです。日々の計測データは国際度量衡局(BIPM)へ報告され、協定世界時(UTC)の管理にも貢献しています。 産総研の詳しい事は、産総研のHPで知る事ができますので、当サイト的に興味深い事をお伝えしようと思います。写真には、そうそうたる計測器が写っていますが、その中でも周波数に関連した研究施設で必ずと言って良いほど見かける旧型測定器があります。どれだか分かりますか?正解は、周波数カウンターSRS SR620と分配器HP5087Aです。どちらも25年以上前からある物で、最新計測器が多く存在する中、何故この計測器は現役なのでしょう。予算の問題でしょうか?いえいえ、違います。SR620を使う最大の理由を校正ご担当の方に聞いてみました。それは「素性が良く分かっているから」との事です。校正には「不確かさ」という各計測器の精度を含む複雑な計算が必要なため、各機関で共通の機器を使うメリットもあるのかと思います。HP5087A分配器については聞き漏れてしまったのですが、弊社でも同機器を使用しており理由は簡単に想像できます。詳しくは下記で。

 

 

TSC5110A

こちらは、管理システム室内で周波数国家標準の5MHz系と10MHz系をアラン分散・位相雑音測定器TSC5110Aでモニターしている画面です。さすが国家標準だけあって、アラン分散 T = 100 secで1e-14台、T = 1000 secで6e-15台の素晴らしい特性が確認できます。
 ご参考までですが、周波数の校正とは、持ち込んだ発振器が国家標準に対してどれだけ周波数がズレているかという周波数偏差の値をもらう作業の事です。その周波数偏差の値を自身の計測時にオフセットする事で正しい周波数を得られるという訳です。持ち込んだ発振器を、国家標準の周波数と同じに調整して合わせてもらう作業ではありません。調整を伴う作業は、同じ「こうせい」ですが較正という字となります。国家標準の校正機関では、較正は行っていません。

 

 

原子泉発振器

←産総研の位相雑音校正システムです。位相雑音の校正とは、10MHzの周波数で−100dBc/Hz(特定のオフセット周波数)の信号が国家標準として供給され、その信号を持ち込んだ位相雑音測定器で測定し、その値から測定器の国家標準に対する相対偏差を得るという内容になります。
 ここにもお約束のHP5087A分配器がありますね。HP5087Aは、現行の分配器を含めた中でも位相雑音特性とアラン分散特性が非常に良く、更にチャンネル毎にバッファ基板が独立していて調整やメンテナンスがし易いのが特徴です。5MHzと10MHz等の分配する周波数に合わせた内部基板の選択も可能となっていて、正に研究所仕様と言える優れた機器です。

 

 

原子泉発振器

 産総研NMIJ−F2原子泉装置です。原子泉の仕組みは、レーザー冷却で真空の共鳴管に垂直で低速に打ち上げられた原子が落ちてくるまでの時間で基準周波数を得る最新の原子周波数標準器です。精度は共鳴管の長さ(原子の滞空時間)に依存します。 高精度なのですが国家標準器としては用いられていません。原子泉装置の開発は、後述の情報通信研究機構でも行われています。
 産総研では、この他に世界最高水準の低位相雑音特性である「サファイア発振器」も開発(西オーストラリア大学と共同)しています。サファイア共振器は低温になればなるほどQ値が高くなり、その冷却温度は液体窒素の−196度でも未だ高く、液体ヘリウムの−269度で冷却する事により水素メーザーよりも高い精度を得ています。液体ヘリウムを毎日数リットルも消費する構造の為、運用コストは高くなります。

 

情報通信研究機構(NICT)

情報通信研究機構

 情報通信研究機構(NICT)は、東京都小金井市に本部があり、皆さんにも馴染み深い日本標準時を管理している所です。日本標準時を基準にして標準電波JJY(電波時計)の発信を行っているのもNICTとなります。
 名前の通り、情報通信関係の研究開発が主で、ネットワークや電波を利用した分野を極めています。また、日本標準時を管理する事から周波数標準器が必要で、周波数国家標準器を保有しています。最初にも申し上げましたが日本では、産総研とNICTの2機関のみ周波数国家標準器を保有しています。

 

 

5071A セシウム周波数標準

 NICTの周波数国家標準器は、5071Aを18台稼働させ、その信号を平均・合成化によってより高い精度を得ています。(2008年に弊社の標準器を校正した時の話では、5071Aの設置台数はもっと多かったと記憶しています。) 長期安定度の高いセシウム周波数標準の弱点である短期安定度の精度を確保する為、水素メーザーも4台使われています。このようにして作られた周波数国家標準を用いて日本標準時が生成されています。もし、日本標準時が停止してしまうと社会に甚大な影響を与えてしまうため、4セットのシステムを別々のシールド室で分散運用し、リスクに備えています。

 産総研と同様に、日々の計測データは国際度量衡局(BIPM)へ報告され、協定世界時(UTC)の管理にも貢献しています。

 

 

 

5071A セシウム周波数標準

 

←国家標準と日本標準時を管理するシステム室です。管理している発振器の数が多い為か、大規模な構成です。周波数カウンターSR620が3台見えますね。SR-620は、今も世界中の周波数校正機関で使われています。計測方法は、周波数値では無くリファレンスに対する被計測物のA-Bインターバル値が主になります。

 

 

標準電波JJY制御室

 

 こちらは、システム室の向かいにある標準電波JJYの制御監視装置です。おおたかどや山と、はがね山の2箇所の送信所を監視をしています。電波時計は、ここで管理されている電波を利用して時刻を較正しています。
 左奥にあるのは電話回線による日本標準時送出装置です。(117の時報ではありません。)

 

 

 

 

 情報通信研究機構は、年に1回一般公開されておりますので、
ご興味がある方は行かれて見てはいかがでしょうか。

 

※上記内容は、弊社独自の取材と撮影資料で構成しています。 


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