弊社校正システム
弊社製品に設定している高水準な仕様を満たす選別を行うには、高精度の計測機器を必要とします。10MHzの周波数を、この精度で測定する計測器は大変特殊で、弊社では専用の位相雑音・アラン分散測定器と参照基準器を使用しています。
さらに、計測されたデータの客観的信頼性が得られる様、計測器は規定サイクルで国家標準にトレーサブルな校正を受けております。 また、製品1台毎に長期間の連続した検証を行い、安心してご使用いただける製品を供給できるよう努めております。
■校正機器
5071Aセシウム周波数標準器/TSC5120A/5115A/3120A/53100A アラン分散・位相雑音測定器/BVA8607(短期安定度・位相雑音 参照基準器)/53132A 周波数カウンター/E4402B スペクトラムアナライザ/恒温槽
<上記写真は、2021年現在のシステム構成です。>
2021年現在、校正精度を高めるため各計測機器は大幅に更新されています。
以下、旧システム内容の紹介となります。
■校正内容
・5071Aを基準参照した周波数カウンターによる長期間の周波数確度検証、周波数確度の較正
・TSC5115Aによる位相雑音・アラン分散の測定及びグラフの作成、スプリアスの検出
・E4402Bによる信号レベル・高調波レベルの計測(参考値)
計測機器の一部紹介 ( 旧システム )
■リファレンスクロック関係
周波数関係の計測を行うためには、特性値が校正で分かっている高精度のリファレンス信号を計測器に供給する必要があります。
長期安定度測定用マスター基準器
・セシウム周波数標準5071A
セシウム共鳴管により、極めて高い周波数確度のクロックが本機単体で得られます。周波数確度と長期安定度のための基準発振器となります。
マスター機とマスター精度確認用の社内校正用予備機を保有しています。
マスター機は、弊社研究の課題から相当な精度が要求されるため、産業技術総合研究所により校正を受け国家標準周波数との相対偏差を得ています。
3ヶ月毎にマスタ機と社内予備機で24時間の位相差を計測し、周波数確度の維持確認を行っています。
位相雑音・短期安定度計測用マスター基準器
・BVA8607 (オプション搭載)
・Symmetricom 1000B
BVAは、日本の周波数国家標準にも採用されている、世界でも最高クラスのOCXOです。
セシウム周波数標準は、長期安定度が非常に良いのが特徴ですが、短期安定度や位相雑音を計測するためには測定の目的に合わせた精度のリファレンスクロックも必要となります。リファレンスクロックの性能が計測の限界点になるため、高い性能を要求されます。
他にもマスターと同等性能のOCXOを複数管理し、相互比較によって特性確認を行っています。
マスターOCXOは、常時±0.2℃の精度で管理された恒温槽内で動作させています。
弊社で開発したOCXO専用電源(SiCデバイス採用の超低雑音化されたリニア電源)でドライブしています。このOCXO専用電源の技術は、弊社製品にも応用しています。
弊社所有 BVA8607 固有特性値(メーカー校正値)
<Allan Deviation @10MHz>
Tau : Sigma
1sec : 1.00E-13 / 4sec : 9.93E-14
10sec : 1.07E-13 / 30sec : 1.23E-13
<Phase Noise @10MHz>
Noise : Offset
-128dBc/Hz : 1Hz / -140dBc/Hz : 10Hz
-147dBc/Hz : 100Hz / -151dBc/Hz : 1KHz
(BVAは、OSCILLOQUARTS社の製品ですが、現在は、RAKON社に製造・販売が移管されてHSO−14という型番になっています。)
■位相雑音・アラン分散測定器
・TSC5115A
Symmetricom社(現Microsemii社)製で、入力周波数1MHz〜30MHzまでの被測定物の計測ができます。
計測限界値-133dBc/Hz@1Hzと高性能ですが、リファレンス信号との比較により測定が行われるため、リファレンスの精度が実際の測定限界点となります。
リファレンスには、長期安定度の測定に5071Aを、短期安定度及び位相雑音の測定にBVA8607を使用しています。
より高い校正精度を担保するため、産業総合研究所の技術コンサルティングにより高精度校正を受けています。10MHzに於いて-100dBc/Hz,-110dBc/Hz,-120dBc/Hz@オフセット1Hzでの計測精度は、すべて国家標準の位相雑音標準器の不確かさ(同等以下)である、0.73dBと校正されています。
【位相雑音・アラン分散測定器の高精度校正 詳細ページ】
■周波数カウンター
・53132A
KEYSIGHT(旧Agilent)社製です。5071Aを外部リファレンスに使用し、周波数確度の計測を行っています。
他に、長期の周波数偏差を計測する為に同社53131A、53181Aを8台稼働させています。
■恒温槽
・サイバーシャフト製
求めていた精度と容量の恒温槽が市販の物で見つからなかったため、弊社で製作した物です。
発振器を校正する場合、外気温の変化による影響を無くさなければ正確な特性は得られません。その為、被測定物は恒温槽に収納して計測しています。BVA等のリファレンスクロックも収納しています。
±0.2℃の精度で運用しています。
製作した恒温槽は、小型冷蔵庫の筐体を改造して13Aのペルチェ素子と350 x 250 x 90mm 5kgの放熱板×2セット構成で冷却しています。外気温度と設定温度及び内部発熱係数によって制御を行わないと、±0.2℃の精度を維持する事は困難です。
コンプレッサーとヒーターによる小型インキュベータも試しましたが、コンプレッサーON/OFF時の振動と、コンプレッサー作動時の急峻な温度変化が計測結果に影響を与えるため、導入を断念した経緯があります。
←背面冷却部と制御・電源部(上)
■長期試験台
製品に搭載されるユニットは、長期間試験を行って選別し、信頼性を高めています。
そのため、1度に10台までの被検査物が同時に計測できるベンチを設置しています。
(右側に見える銀色の物は、廃熱用ダクトです。)
他に、40台までOCXOを常時通電するベンチも稼働しています。
環境測定データと共に、ベンチで収集された周波数値のデータは、24時間連続して記録し長期周波数安定度を評価しています。
長期安定度に優れたルビジウム発振器は、1ヶ月でも僅か0.1mHz程度しか変動が起きませんが、フリーランニングしているOCXOの場合には、個体の特性によって相当の差がある場合がありますので必ず長時間での確認が必要となります。
また、リサイクルユニットの選別を行う場合に、個体の寿命に関する特徴的な傾向を把握しているので、予測される故障の可能性を事前に把握する事にも役立てています。
計測ソフトウェアーは、すべて弊社独自で開発したシステムを使用しています。
■スペクトラムアナライザ
・E4402B
KEYSIGHT(旧Agilent)社製です。出力レベルの測定と高調波の測定に使用します。
位相雑音・アラン分散測定器では、波形の歪みは観測できませんが、スペクトラムアナライザでは波形の歪みを確認する事ができます。
E4402Bには、数次まで高調波を自動測定するメニューがあり、繰り返し正確に高調波を観測できます。
■環境測定器
・RTR−52 T&D社ワイヤレス型温度計
正しい計測を行うには、環境測定も大切な要素となります。特に計測時の温度は重要ですのでDUTの内部、恒温槽内、5071A収納ラック内部、長期試験台等、合計7カ所の温度をUSB接続の受信器でパソコンに取り込んでいます。
校正室用の特殊なエアコンでない限り、エアコンでの空調では結構な温度差が断続的に起こります。また、真冬や真夏などエアコンが24時間フル稼働する状況では予想外の室温になってしまう事もあります。そのような状況が起きているかいないかを把握するために環境測定の結果は、24時間パソコンで監視し、データは校正データと共に記録保存しています。
■商用電源関係
・BU150SW オムロン製 常時インバータ
・NCT−F4 電研精機研究所 ノイズカットトランス
商用電源の電圧は、意外と安定していません。また、極希にですが瞬停もあります。LABには100A(特殊型)を引き込んでいますが、それでも真夏などは数台のエアコンがフル稼働してブレーカーが落ちる事もあります。電圧安定化とブレーカー遮断も含む瞬停対策にオムロン社の常時インバータを経由して計測器及びDUTに電源供給しています。
また、電源ノイズを排除するため医療機器用ノイズカットトランスも使用しています。このトランスに20A近くの電流が流れると非常に強力な電磁波が発生するため、計測機器と距離を相当離さなければなりません。
(写真では、どちらも小さく見えますが実物は総重量53Kgで巨大です。)
2009年当時の旧LAB
東日本大震災を機に、現在の事務所に移転しております。